研究紹介

メシマコブ菌糸体PL-08菌株に関して

はじめに

国内で採取した野生メシマコブの遺伝子解析を行い、メシマコブであると同定した後、各系統間における個々の野生株の特性をより明確に把握するため、分子レベルでの比較として、地理的に離れた自然集団におけるメシマコブのミトコンドリアDNA(mtDNA)での制限酵素断片長多型(RFLP)解析を行い、遺伝的変異性の調査およびメシマコブ種内の個体群分けを検討した。

次に、効率良くメシマコブ由来の有用な成分を獲得するために、大型タンク(写真上)を用いた工業規模で菌糸体(写真中)を獲得した上で各種薬理試験を行った。

液体培養タンク
培養中のメシマコブ菌糸体
表面培養メシマコブ菌糸体

まず予防医学の観点から生体系における老化発ガンの原因となるスーパーオキシドアニオンラジカルの消去活性試験に関して、メシマコブ菌糸体(写真下)由来成分から活性成分を単離し、化学構造解析を行った。

さらに、メシマコブ菌糸体由来成分を用い、動物による一般毒性試験、抗アレルギー試験(NC/Nga.,/mice)および、抗腫瘍試験(Sarcoma180/mice.p.o.法)を試みた。

また、抗アレルギー試験のひとつの指標としてのヒスタミン遊離抑制試験を行い、活性物質の単離・同定を行った。

最後に、現在社内で試験中の抗腫瘍活性に関連したHL-60細胞(ヒト骨髄性白血病由来細胞)を用いた細胞増殖抑制およびアポトーシス誘導能の調査を行い、これらの各種薬理作用におけるメシマコブ菌糸体成分の有用性を評価した。

現段階の報告は、DNA解析による裏付けからメシマコブであると同定した菌株を用い、大型タンクによる大量培養から獲得した菌糸体薬理活性試験に関して、専門的な見識を有する各大学機関と当研究所との共同研究から得られた内容である。

メシマコブ菌糸体:PL-08菌株の最新研究

遺伝子解析と優良菌株の選定
抗酸化作用
一般毒性試験及び抗アレルギー作用
ヒスタミン遊離抑制作用
抗腫瘍作用(in vivo)
抗腫瘍作用(in vitro:アポトーシス誘導能)

Dr.Nakamura

Dr.Nakamuraプロフィール

資格

・工学博士

・きのこアドバイザー(公的機関)

・日本きのこ学会評議員

・研究所所長

研究成果

・英文論文

21報

・和文論文

11報

・総説、専門書

5報

・特許申請

25報

・学会講演

43回

遺伝子解析と優良菌株の選定

日本産野生メシマコブ9系統および韓国で人工栽培されている2系統に関して、ITS-5.8SrDNAの塩基配列を調べ、BLAST検索から登録菌種との比較を行った。

今回の結果では、日本産野生メシマコブ9系統全てがメシマコブ(Phellinus linteus )であると同定され、韓国人工栽培菌種2系統はエゾキコブタケ(Phellinus baumii)であった。

次に、日本産野生メシマコブ9系統に関して遺伝的変異性を検討するために、ミトコンドリアDNA(mtDNA)の制限酵素断片長多型(RFLP)分析をおこなった。

9系統からそれぞれ単離したmtDNAを制限酵素(BamHI、EcoRI)分解したところ、9系統のmtDNAは5種類の異なる遺伝子型に類別できた。

メシマコブのmtDNAのサイズは73.0〜81.5kbであった。遺伝子型の異なる5種のメシマコブを用い、菌糸体培養および、抗腫瘍活性試験を行ったところ、PL-08菌株において最も高い活性を示した。

この活性を示したPL-08菌株のmtDNAサイズは74.0kbであり、以降の試験では、この供試菌を用いて試験を行った。

この試験において、日本産の桑の古木に寄生した硬質系キノコは、全て真正のメシマコブであると同定された(右図参照)。mtDNAのRFLP分析では、国内種メシマコブの全てではないが、個体群分けが可能であると考えられた。

また、メシマコブのmtDNAのサイズは73.0〜81.5kbであることが示唆され、最も有用な菌株PL-08であるとわかった。菌糸体培養を行う上で、使用する菌株が真正なものである点、また、種内において優良な菌株を選抜する点、以上の点をベースにして試験を進めることが重要であり、今回の試験からもDNAレベルで十分な裏付けを得た上で、各種の試験を行う必要があると考られた。

PL-08とPhellinus spp.を含む,ITS-5.8S rDNA塩基配列

PL-08とPhellinus spp.を含む,ITS-5.8S rDNA塩基配列データに基づき近隣結合法で推定された分子系統樹

このページの先頭へ↑

抗酸化作用

Hypoxanthine, Xanthine oxidase系を用い、トラップ剤DMPO(5,5-dimethyl-1-pyrroline N-oxide)でトラップしたスーパーオキシドアニオンラジカル(O2.-)をESR(JES-FR100)装置により測定し、各成分を添加することでその消去活性(以降スーパーオキシド消去活性)を調査した。

まず初めに、12種類(ヒメマツタケ、マイタケ、マンネンタケ、ヤマブシタケ、シイタケ、ハタケシメジ、ホンシメジ、カンゾウタケ、ヌメリスギタケモドキ、エリンギ、ナメコ、メシマコブ)のキノコ菌糸体培養成分を用いて調査した結果、メシマコブPL-08株)が最も高い活性を示した。

さらに、メシマコブ菌糸体成分の活性画分を探索するため、各種分画操作を行い、EtOAc画分に活性が認められた。さらに細分画を行ったところ、極性が強い画分に高い活性が認められた。

この活性画分を細分画した結果、Caffeic acid(右図参照) を単離することに成功した。この成分のスーパーオキシド消去活性はIC50:3.05mg/mL(16.9mM)であり、抗酸化物質として知られているビタミンCの約2倍の消去活性を有することが示唆されいる。高等菌類であるキノコ由来菌糸体からCaffeic acidを発見したことは初めての成果である。このCaffeic acidは、メシマコブにおける薬理作用の一役を担っていると考えられる。

また、活性酸素種としてスーパーオキシドと同様に注目されているヒドロキシルラジカル
(・OH)の消去活性に関して、上記12種のキノコ菌糸体成分におけるESR装置を用いた消去活性を調査した結果、メシマコブは最も高い値を示したヤマブシタケと同等の消去活性を示した。

これらの結果から、メシマコブ菌糸体成分中には様々な活性酸素種に対して抗酸化作用を示す成分が多く含まれていると考えらる。

Caffeic acid の化学構造

Caffeic acidの化学構造

このページの先頭へ↑

動物実験による抗アレルギー作用およびヒスタミン遊離抑制作用

本研究はアトピー性皮膚炎を自然発症するマウスを用いた血中IgE値の抑制および肉眼的皮膚所見をもとに、メシマコブ菌糸体成分の有効性を調査した。

右図に示した通り、メシマコブ菌糸体成分を投与することで血中IgE値の産生を有意に抑制し、アトピー性皮膚炎の発症も抑制する結果が得られた。

次に、ヒスタミン遊離抑制作用の調査だが、この研究は「2003年度の日本農芸化学会大会で発表した内容の抜粋」である。


アレルギーに関連した試験としてヒスタミン遊離抑制作用に関する調査がある。ここでは、ラット腹腔内由来マスト細胞を用いたヒスタミン遊離抑制試験を行い、メシマコブ菌糸体成分中における活性成分の単離・同定を試みたので報告する。

まず、前述の動物実験においてメシマコブ菌糸体熱水抽出成分の有用性が示されたことに着目し、分画サンプルの調製を行った。メシマコブ菌糸体の熱水抽出成分をアルコール画分と水画分に分けて試験を行った結果、アルコール画分において活性が認められた。さらに、液体クロマトグラフィを用いて細分画を行った。

結果としては、ヌクレオシドのアデノシンとN-Hydroxy-N-methyl-adenosineを単離・同定することに成功した。これら成分のヒスタミン遊離抑制率(添加濃度5μg/mL)はそれぞれ30%、27%であった。

また、市販のインタール試薬と比較した結果、アデノシンおよびN-Hydroxy-N-methyl-adenosineはインタールを上回る活性を示した。

このヒスタミン遊離抑制試験は、前述の動物実験における血中IgE値の抑制効果に対する直接的な関連性はないと思われ、アレルギー症状の末端で誘発される炎症(痒み等)に対しての抑制効果を示す可能性があると考えている。(特許取得)


抗腫瘍作用(in vivo)

メシマコブ菌糸体由来成分中の生体内に及ぼす効果を調査する目的で、被験材料を菌糸体熱水抽出成分および培養濾液に分け、動物試験を行った。

Sarcoma-180固形癌移植モデルマウスを用いた腫瘍抑制効果の結果は、メシマコブ菌糸体熱水抽出成分および培養濾液の両者で抗腫瘍活性はそれぞれ75.4%、62.2%と高い値を示した。特に、菌糸体熱水抽出成分では、NK細胞活性が2.2倍、IFN-γが約3倍およびTNF-αが約2倍の活性を示した。(右図参照)

以上の結果からメシマコブ菌糸体熱水抽出成分はマウス生体内の免疫機能が賦活することで抗腫瘍効果を示すことが示唆される。

次に、活性成分を調査することを目的として、アルコール・熱水・アルカリ(4%NaOH、24%NaOH)の各抽出を段階的に行い、抗腫瘍活性を調べた。

結果としては、メシマコブ菌糸体の全ての画分において、活性に強弱はあるものの、抗腫瘍活性が認められた。

特に、最も高い抗腫瘍活性率81.2%は、24%NaOH抽出におけるpH6.0調整の沈殿物として獲得した、糖タンパク複合体に認められた。この糖タンパク複合体は、糖質39.3%、蛋白質49.4%の構成でる。

13C-,1H-NMR解析によって、この複合体の主要な糖部分はα-1,3-グルカンである。

メシマコブ菌糸体成分投与におけるNK細胞活性
メシマコブ菌糸体成分東洋におけるIFN-γへの効果

メシマコブ菌糸体成分投与における
NK細胞活性・IFN-γへの効果

このページの先頭へ↑

抗腫瘍作用(in vitro:アポトーシス誘導能)

メシマコブ菌糸体由来成分のHL-60細胞(ヒト骨髄性白血病由来細胞)への細胞増殖抑制および、アポトーシス誘導能の調査を染色後の顕微鏡観察および、DNA断片化の有無により確認した。

動物実験と同様にアルコール・熱水・アルカリにおける各抽出を段階的に行い、各試験に供試した。

結果としては、アルコール抽出成分および、アルカリ(24%NaOH)抽出成分において、細胞の増殖抑制効果が認められた。(右写真参照)

特に、アルコール抽出成分が最も高い抑制効果を示し、アポトーシス誘導の裏付けであるDNAの断片化および、核の凝集も観察された。アルコール抽出成分(添加濃度800μg/mL)の細胞増殖抑制率は29.6%だった。アルコール抽出成分に比べて低い活性であったが、動物実験において、最も高い抗腫瘍活性を示したアルカリ(24%NaOH)抽出成分においても、腫瘍細胞の増殖抑制および、アポトーシスの誘導が観察された。

動物実験と今回の腫瘍細胞における細胞増殖抑制効果は、直接的な関連性があるか否かの裏付けは、現段階では得られていない。しかし、主要成分が糖タンパクであるアルカリ抽出成分において、腫瘍細胞に対して、直接的な細胞増殖抑制を示したことは興味深い結果である。

今後は、さらにこれらの関連性を調査する予定である。

また、現在、様々なヒト由来腫瘍細胞を準備し、各種臓器別の腫瘍細胞に対する細胞増殖抑制効果ならびに、アポトーシス誘導能の調査を進めている。これらの研究結果に関しても、データがまとまり次第、随時報告する。

メシマコブ菌糸体分画成分によるDNAラダー

コントロール

メシマコブ菌糸体抽出成分
添加後

ギムザ染色による細胞形態の観察

このページの先頭へ↑